ギヤの再生 2013/11/9


 アンパンマンの頭を押し込んで手を離すと汽車が前に走ります。
4個使用しているギヤのうち2個のギヤで歯が折れていました。ギヤを再生することで修理は成功したのですが、 上図の左のギヤでは歯数10 のピニオンギヤのうち3枚の歯が破損しており、いろいろ手が掛かったので少し細かいことを 報告します。

修理計画のこと

 とにかく原型の修復が最初の課題です。原型が出来てしまえば、後は型取りをして注型するだけですから、これまでの 経験から後工程は問題はありません。
 今回の場合破損している歯が全体の歯数に比べて多いので、最初は市販のピニオンギヤをつぎはぎして何とかならないか 考えてみました。
 左図のような計画です。現品のギヤをピニオンギヤの部分で切り離し、市販ギヤを挿んで後は接着なりはめ合いなりで 全体を組み上げようと言うものです。
 この計画は一見良さそうですが、言うは易しの口で、軸をブラさずにばらばらの部材を組み上げるのにはなかなかの困難が予想されます。

 もし中心に一本の軸が通っているのなら話は別です。シャフトに金属ロッドを使用して、型取りを考えずに原型をその まま使用するのが手かもしれません。良い方法に思えましたが、現品を切断してしまうので後戻りができません。そこでものは 順番で、非破壊の次の方法を試みたところ、何とか実用に耐える物が出来てしまったので、この方法は試せずに終わりました。もっとも考えてみれば、22枚の平歯車は容易に入手できるので、全て市販品で作リ直すという方法もあったとは思います。

 結局てはじめに手元にある部材で、従来通りの歯型を樹脂で創成させる方法を試みてみることにしました。
 残っている歯が少ないので、手間は掛かりますが次のような手順でやります。

  1. まず破損した歯の部分をワックスで歯車の歯先円に沿うように埋めます
  2. その上で歯型をシリコンで取ります
  3. 正常なシリコン歯型部に破損部が重なるように配置し、破損部に樹脂を注入して歯型を創成させます
  4. 1回では全部の破損部を修復できないので、2回に分けて修復作業を行います

修復の実際


 上の写真左は破損部をワックスで埋めた状態です。目見当で歯先円に沿ったように仕上げています。写真中央はシリコンで取った型を裏から見ています。写真右は修復に成功した原型です。

  樹脂を注入すると言っても、モジュール0.5 の歯ですから1滴にも満たないわずかな量を扱うことになります。たとえ流動性の良い樹脂を利用していても、非常に狭い部分に注入するので、真空引きが不可欠です。しかしその反面必要の無い 部分まで樹脂がまわってしまうので、事前に樹脂が付着して困る部分に離型剤を丹念に塗布しておくことが重要です。
 低粘度のエポキシ樹脂を使用する関係で、真空引きをすると思わぬ部分にまで樹脂が流れ込んだり漏ったりするので、 なかなか計画通りには進みません。また離型剤を塗布したと言っても、不要な付着物を除去するのに手間がかかるのも避けられません。

 手間暇かけた末になんとか仕上げたのが右上↑の写真です。拡大してよく見るとあまり上等な仕上がりではないのですが、 とにかくこの原型を型取りしたモールド品でおもちゃは動いてくれました。(冒頭の写真右)

 歯車の材質は ABS とか PP などがよく使われているようですが、PP の場合はエポキシ樹脂は接着しないので苦労します。 そうでなくても、モジュール0.5 程度の歯車が根元から折れた場合、断面の巾が 0.8mm 程度しかありませんから、たとえ接着剤が利いたとしてもその強度はたかが知れ てます。

 注入した樹脂がしっかり固着していないと、型から外す段階で取れたり、無事取り出せたとしても付着物の汚れを除くのに触れるだけで 取れたりします。そこで少しでも強度を増すようにと、図のように接着面に穴を穿ってやりますが、これが案外効果があり、 型抜きなどではがれることは無くなります。次の段階のシリコンの型取りさえ無事に終了すれば用済みになる話なので、あまり強固に 出来ている必要もないんですけどね。