ゼンマイカー
2012/7/13

ゼンマイ巻き上げ対策

 車を床に押し付けて、一度手前に 引いてから手を離すとびっくりするくらい遠くまで走っていくおもちゃです。 ギヤボックスは右のような小さなものですが、これだけで機能が完結している精巧なものです。空回りしてこのゼンマイが 巻けなくなりました。
      

 ゼンマイ巻上げ軸の、S字形にゼンマイを からませる部分の爪が折れていました。本来強度的にはこれで十分なのでしょうが、何らかの理由で大きな力が掛かった ようで両側ともに折れていました。
 軸の真ん中に長円形の部分が残っているので、これにソケットを装着することにしました。このソケットにゼンマイを 接合すれば巻き上げには問題ないでしょう。

 小さなものですが、左の写真のようなものを作りました。手前のスケールは1mmの刻みを表しています。 これを装着したものが右の写真です。
 ゼンマイはソケットにロウ付けしてあります。

 これで一件落着のはずでした。ところがこれを組み込んでおもちゃを動かしてみると、何とものの2〜3回の運転で また空回りしてしまい、巻き上げ不能となりました。ゼンマイのロウ付け直後部分の破断です。ロウ付けははがれていません。

 原因がサッパリ分らないのですが、原因は何であれ、ゼンマイをソケットに固着させると折り曲げるような力が 働くことは確かです。もしかするとゼンマイがほどけ過ぎて逆に巻かれるのかもしれません。
 そこでものは試しで、左図のようにソケットにフックを追加工して、ゼンマイの穴に引っ掛けて巻き上げるような方法 に変えてみました。これなら仮にゼンマイが逆に巻かれるような事態になっても、自動的に空回りしてくれるのではないかと 期待した対症療法です。

 この試みはおおむね成功したらしく、とりあえず壊れません。そこで事態をよくよく観察したところ、 つぎのような事が起きることが分りました。
 巻き上げたゼンマイを巻き戻す方向へ動かすと、少し動いたところでゼンマイが瞬時に巻き戻ってしまうことが分りました。これが分れば事は簡単で、この現象はどこかのギヤの歯が欠けていることを示しています。
 欠損した歯車のところでゼンマイの負荷がフリーとなって瞬時に巻き戻ってしまいます。この現象が起きると、 ゼンマイは全部巻き戻ったところで最高速度に達した巻き上げ歯車の慣性能率によって逆方向に巻き上げる力を受けるわけです。
 ゼンマイを逆方向へ折り曲げようとするので固着させれば簡単に折れてしまうわけです。 結局2次災害の対策から始めたので回り道になってしまいました。

破損歯車を修理する


 精査した結果、やはり歯車のひとつで歯が欠けていました。何分にも小さい歯車で、左の歯車は上段が 外径8.5:モジュール0.5 で下段が 外径3.9:モジュール0.35 です。欠けている事を確信して探さないとこの欠損はなかなか見つかりません。

 さて歯車の修理ですが、代替品を見つけてくるのが修理としては一番確実なのでしょうが、大分苦労したので 苦労ついでに歯車の複製を作ってみることにしました。

 

 複製には欠陥の無い原型が必要です。通常では欠損した歯車を他の正常な歯型で再生させ、見かけ上正常な 原型を作成します。つまり正常な歯型の型をとり、その型で破損部分に樹脂をモールドしてやるわけです。 ところがこの歯車の素材(ポリエチレン?)には接着する樹脂が手元にみあたらず、困ったあげく窮余の策として ワックスを使って目見当で歯型を創製してみました。(青色部分)
  
  

 ワックスで歯型を修復したものを原型にしてシリコンで型を取り、エポキシ系樹脂をモールドした結果が左の写真です。 ちいさくて半透明なものですから、修復箇所がどうなっているのか良く見えないのですが、とりあえずこの歯車を組み付けてみた ところ無事に正常動作しました。

 以上でめでたく修理完了となりますが、モールド歯車についてはいろいろ懸念材料が残る結果となっています。

  1. 目見当で歯型を修復しているが、標準形状からは程遠いでしょうから使っているうちにどんなとがめが出てくるか
  2. 使用した樹脂は2%の収縮率を持っているのが、その影響はどうか
  3. もとの歯が折れるくらい力を受ける箇所だが、使用した樹脂の強度と耐久性はどうなのか